入院日記(9)

今日は入院中、一番「怒った」件について語っていきます。
術後1週間ほど経った時分だったかしら、
毎日「昨日、お小水と大きい方はどうでしたか?」と
朝に担当の看護師さんに訊かれるのも、幾分慣れてきたという頃でした。
その時は、まだ「ベッドから離れてはいけない」という
まあ、絶対安静の時期でしたのでおしっこの管は入っており
お小水はまあ勝手に出ていくので、恥ずかしくはあるけれど
問題ない状態。
問題なのは「大きい方」
入院後、いつもよりも出る頻度が下がってしまって
便秘気味で人知れず苦しんではおりました。
催したならばナースコールで看護師さんを呼び
下にプラスチックの大きめのお皿をひいてもらって
その皿の上にエイヤッとひり出して、
もうナースコールで事後処理をお願いすると
そういう流れです。
溜めとかないと出るものも出しづらい、そういった感じで暮らしておりました
看護師さんに見ててもらったほうが出しやすい方もいるのかもしれないけど
私は流石にそこまでは突き抜けては生きていけませんね、今の所・・

その日はかなりの量を催した気がしたので
いつもどおりナースコールで、便意を伝え、セッティングをしていただき
「終わったら呼んでくださいね」との看護師さんのお言葉に
「ハイ」と返事をして、大量に出たまでは良かった。
特有のホッとした感じを味わいながらナースコールをして
「はーい、今伺います」というご返事を頂いたのだが・・・
来ない
5分待ち
10分待ち
まだ来ない
・・・・・
さすがにもう一度ナースコール。
「はーい今伺います」
来ない
来ない
朝「今日はレントゲンが午前中入ります」と伝えられていた
オイオイ、ここにレントゲンとか来ないだろうなあ・・
オムツを外され足を広げて静止した状態で
人様には見せられないものを全開の状態で。
しかも大量だったので背中にまで接触してる感触があったし。
当然ながら臭ってくるし
(ボクチンは最悪の場合を予想して窓を「半開き」にしてもらっていたので
「呼吸もできないほどに」というのは回避しておけたのだが、
この場合大して助けにはならない)
来ない
来ない
不愉快というより腹が立ってきた
「なんでこんな目に合わなければならないのか」
実は向かいのあたりの病室の「オバ様」が
何かトラブったらしいのだ。
この方についてはいずれ書くかもしれない。
事情もあるだろうから最初はおとなしく待ったのだが
30分を過ぎた頃からハラワタが煮えてくるのを感じた。
「ウンチ固まって〇〇乾いちゃうんじゃないだろうなあ」

35分も遥かに過ぎた頃レントゲン技師を連れて看護師がやってきた
勿論、先程の下準備をしてくれた方ではない。
レントゲン撮影のためだ。

「レントゲン撮影を・・」
全部までは言えなかったか私が遮ったかは記憶がない
「あの、ずっとこのままなんですけど」
無言のまま慌てて、とりあえず処置を開始してくれる
背中の下に感じられていた「物体」が取り去られたのは
ありがたかった。
ただ、まだ局部は晒したまま、きっちりと綺麗にもしてもらいてない状態だ
ここで私は看護師の驚愕の一言を聞く
「一度オムツはいてもらってもいいですか?」
「冗談じゃない!いやですよ」
オシリとか汚れた状態でオムツをはきたい人がいるというのか?
私は手元の枕をベッドの端っこに怒りを持って叩きつける。
看護師の目が丸く見開かれる。
レントゲン技師も為すすべなく黙り込んでいる。
「ウンチしてから30分ですよ!!何回ナースコールしても全然来てくれないし」
「・・申し訳ありません・・」
やっとこういう言葉が来たが、別にあなたが悪かったわけじゃないし、
当事者なら本人に枕投げつけてるよ。
レントゲン技師を待たせるわけには行かないのは
入院1週間もすれば内部事情もだいぶわかってきていた。
先方の事情はわかる、だが私の矜持も曲げるわけには行かない。
しかしまあ、私も大人だし、
この看護師さんがかなりできる方であることは分かっていたので
「撮影終わったらすぐ拭かせてもらいますので」の言葉を信用することにする。

「すみませんね、大変なときに来たみたいで」
撮影終わって技師が言う。別にあんたが悪いんじゃないのは知ってるよ。
「ありがと〜うございました」
明らかに逆の意味に聞こえるように私は返した。
優秀な看護師の方はそれなりの丁寧さを持って処置をしてくれた。
汚れた場所を拭き取って新しいオムツも履かせてくれた。
とりあえず、物理的なものは騒動の前に戻った。
優秀な看護師の方も去っていった。

一人になっても私の怒りは当然ながら渦巻き続けていた。
心臓に悪い時間が過ぎてゆく。血圧も相当上がっていたはずだ

そうして悶々としているときにマドンナが現れた。
「〇〇さん、△△です」
こういうときまで名乗りを欠かさないのか△△さん!
「先程は本当に失礼をいたしました」
聞くところによるとその日の担当はマドンナだったのだが、
諸事情で来ることができず、先程のようなトラブルが起きたということのようだった。
「30分もお待たせしてしまって本当にすみませんでした。
呼ばれたらすぐに来なければいけないのに・・」
あなたみたいな看護師ばかりなら、その病院は世界一ですよと思いながら
「40分です、本当は」と、告げる
さっきの方は半部外者なので少し少なめに言っておいたのだ。
「お辛かったでしょう?もう一度お体拭かせていただいてもよろしいでしょうか?」
拭く必要のないくらいに綺麗にされてはいた私の体だが、
これはマドンナなりの私への思いやりと感じたので私は
「ではよろしくおねがいします」と答えた。

体の隅々まで、この入院期間中、まさしく「最高の丁寧さ」を持って
私の体は完璧に程よい温度の濡れタオルで拭かれていった。
入院体験のある方は「程よい温度の濡れタオル」が
如何に貴重なものであるかおわかりいただけるだろう。
暖かく、しかも拭かれるうちに清々しくなるという絶妙の温度と拭く動作。
私の中の怒りや惨めな気持ち、人を恨む気持ちなどが
拭いてもらううちにどんどんと消え去っていった。

処置をしながらもマドンナは平謝りを続けながら、
ナースコールは5分以内、いや直ぐに駆けつけないといけないこと、
今日は病院がちょっと慌ただしく人員が不足気味であることを
告げ、「言い訳にしてはいけないんですけど・・」
と、締めくくった。
「私、血圧上がったのか胸のあたり苦しかったんですけど、
体拭いてもらううちにキレイに治りましたよ、どうもありがとうございます」
「本当ですか?そう言っていただけて嬉しいです」

”病院は看護師さん次第なんだなあ”と、このとき思ったという次第。
この感触を持って入院後半戦に望むことになる。
ちなみにナースコールで声だけで来てくれなかった看護師さんは
退院まで私のもとには二度と現れなかった。

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